ブランドストーリー

「他にないものを」
べっ甲職人の想い

タック株式会社

代表取締役 岡橋泰之さん

高級品として装飾品などに用いられ、愛されてきたべっ甲の加工職人として、東大阪で活動する岡橋さん。独特の模様と艶を持つべっ甲の魅力を広めるため、独自路線を歩む岡橋さんに、職人としての想いを聴いた。



べっ甲とは

南米を中心に生息するウミガメ「タイマイ」の甲羅を加工した装飾品で、古来中国より伝えられ、日本でも古くから高級品として愛されてきました。現在は絶滅危惧種保護の観点からワシントン条約による輸出入禁止の対象となっており、材料の入手が困難で、その希少性はますます高まっています。条約以前に輸入された原料の国内取引・加工および、べっ甲品の国内での売買は現在も合法です。タック株式会社では、条約以前に輸入された原料を用いてべっ甲を加工していますので、安心してお買い求めいただけます 。


「熱」と「磨き」。
べっ甲の魅力を作る職人技

べっ甲の加工は大きく分けて、3つの段階に分かれる。1つ目が、完成品の姿に合わせて甲羅を切り出す「切り出し」、次に、大まかな形を作り、透明感を出す「張り合わせ」、最後に、仕上げともいえる「磨き」。ここで、細かな傷をとり、つやを出す。

「『張り合わせ』は、職人にとって、最初の腕の見せ所です」と岡橋さんは語る。

張り合わせは、タイマイの甲羅が持つ性質を生かして、曲げたり、甲羅同士をくっつけたりする工程だ。この作業で、完成後の大まかな形を作りあげる。甲羅は薄く、ものによっては1ミリほどしかないこともある。だから、1枚の甲羅から作り出せる加工品の大きさには限界があり、完成品が大きくなればなるほど、甲羅の組み合わせが必要になる。



張り合わせに必要な要素は3つ。
「熱」と「水分」、そして「圧力」だ。

「べっ甲の透明感や艶も、熱を与えることで生まれるんです。だから熱が足りないと、曲げたりくっつけたりできないだけでなく、透明感のない仕上がりになる。逆に熱が高すぎると、焦げが模様に残ってしまい、売り物にはなりません」。

削りカスなどの不純物が入った場合も、模様が変わってしまう。完成形をイメージして形を整えながら、熱の調整と、不純物の混入にも気を配る。張り合わせは、緊張の連続だ。



「磨きの技術は、誰にも負けないと思っています」

岡橋さんが最も得意とする「磨き」は、完成品の出来栄えを決める、最後の仕上げの工程だ。

作業の前準備として、小刃を使ってべっ甲を削り、大きなキズやうねりを取る。

続く磨きの作業は、研磨剤と、「バフ」と呼ばれる高速回転する道具を用いて行う。

最初は火山灰を使い、凹凸やキズをとる。



そのあと、さらに目の細かい蝋の入った研磨剤と、布でできた「布バフ」を使って、表面をならす。

仕上げは、「ネルバフ」と言われる最もやわらかいバフによって行い、目には見えないほどの微細なキズをとる。

 丁寧な三段階の「磨き」作業で、表面の微細な傷をとり、熱によって出てきた艶に、より磨きをかける。表面を滑らかにする磨きの技術は、べっ甲の持ち味である艶や手触りに大きく影響する。



べっ甲の魅力を広めるために

職人としての岡橋さんを支える、2つの想いがある。

「他にないものを作りたい」。

「たくさんの人に、べっ甲の魅力を知ってほしい」。

落ち着いた色合いのべっ甲は、着物との相性が抜群で、古くからかんざしや帯留めなど、和装に合う装飾品として親しまれてきた。実際、べっ甲のファンには、着物を着る機会の多い人が多いそうだ。

しかし現代日本では、ほとんどの人にとって、着物を着る機会はあまり多くない。

べっ甲を、もっと多くの人に知ってもらうには、どうすればよいだろう……



行きついたのは、「他にないものを作る」ことだった。

「べっ甲は、模様やつやの上品さはもちろん、軽さや肌触りの良さも魅力です。でも、なじみがない人には、そういう魅力はなかなか伝わりません。いろいろなものを作れば、いろいろ人に見つけてもらえて、そういう魅力を知ってもらえるんじゃないかと思うんです。」

洋服にも合う、ピアスやイヤリング。スーツスタイルに変化をつける、カフスやネクタイピン。音楽分野のギターピックや、三味線の撥も制作した。亀のご利益にちなみ、金運上昇を願う銭亀も縁起物として人気だ。変わり種としては、持ち手にべっ甲を使ったルーペも作った。

ほかにも、名前の形に作るネームプレートなど、オーダーメイドの要望も受け付けている。性質や大きさにより限界があり、実現しないケースもあるが、基本的には、どんなリクエストも断らない。



思った通りに仕上がった時の達成感、作ったべっ甲を喜んでもらえた時の嬉しさ。そして、多くの人に良さを知ってもらいたいという想いが、新しいものに挑戦し続ける岡橋さんを支えている。

 「始めたころより、格段に腕は上がりました。今では、職人としての自信もある。でも、技術の向上に終わりはないと思うんです。日々研究です。」

 昨日より今日、今日より明日。少しでも、職人として成長したい。白い部分がない深爪が印象的な、節くれだった手。そこには、技術へのあくなき探求心が刻まれている。



ショップ紹介

タック株式会社
〒579-8044
東大阪市河内町9-6

「他はしないような、うちでしかないモノをつくりたい」高級品であるべっ甲をたくさんの人が気軽に楽しめるように、という思いのもと、独自性のある小さなべっ甲加工品を中心とした作品づくりを行う。
希少な天然べっ甲を使い、代表取締役を務める職人、岡橋泰之さんの手で、べっ甲品を一つひとつ手作り。べっ甲の他、琥珀・サンゴも手掛ける。