人脈もつてもない中
世界で一流の料理人が集まる場所
フランス・パリへ

中華料理店で働き、料理ができるようになると、彼女や友人など身近な大切な仲間に料理をふるまった。美味しいものを食べると、みんな心から笑顔になってくれる。「こんなに素晴らしい職業はないなって思いました。」人生の行く先が定まったのだ。「そのような人生とは違う人生を歩むつもりだったので、大学を辞めると言った時には、両親は言葉もなく絶句していました。泣いていましたね。」小野田さんは苦笑いする。ただ、理系ならではの論理的思考で判断した結果でもあったので、決意がゆるぐことはなかった。その後は、料理人として一流を極めるためのキャリアステップを自ら描き、行動を積み重ねた。別の中華料理店を経験し、次に選んだのは世界の一流料理人を目指す精鋭たちが集まる場所、フランス・パリだった。人脈も伝手もないが、一流になるための一番の近道であることから迷いはなかった。

もちろん、シェフになってからの苦労もあった。「僕の料理はめちゃくちゃ複雑なんです。一日4回転くらいする人気店だったので、スタッフが作れないとお店で提供できない。だからオーガニゼーションできるようなレシピづくりや、仕込みの簡素化や均一化など、やるべきことが多かったんです。常にロジカルにやっていきました。日本のトヨタ方式みたいな感じですね。人の裁量によるところもありますが、システム化して効率よくできるように相当頭は使いました。」温厚で怒ることがほぼないという小野田だが、現地ではスタッフとの喧嘩も沢山したという。「喧嘩することで仲良くなるという土壌なんです。あえて怒って、ロジカルに喧嘩していました。あ、ここで怒っておこう、みたいな感じです。」熾烈な受験勉強、中華料理店での過酷な労働を振り返れば、パリでの日々は全く大変ではなかったという。好きな道であること、頭を使い、工夫することで状況が思うように開いていく実感と手ごたえがあったのだろう。

ロスに招待されメニュー開発
教え子のイベントで
UMAMI Bomb　LA-YUが誕生

7年間フランスで料理人として活躍した後、2022年7月に帰国したが、その夏すぐに、パリで一緒に働いていた教え子からロスに呼ばれた。パリの人気ワインバーの経験を活かしてロスで独立し、フランスワインを輸入する会社を作った彼女が、ビバリーヒルズのセレブむけイベントを行うために振る舞う、ワインに合う料理のレシピを開発して欲しいという依頼だった。人の縁を大切にする小野田なので断る理由もない。そこで、お土産として準備をリクエストされたのが、彼女が忘れられなかった小野田のラー油だった。

社会課題も解決する
地産「他」消（ちさんたしょう）
次世代調味料としての役割

ロスでは現地の人々との交流からビジネスマインドにもインスパイアされた。社会課題にアプローチし、サステナブルな思考をもつ一流ビジネスマンも多い。小野田が日本人である意味は何か。料理人である小野田がつくる意味は何か。料理人をやめてまで調味料の会社をつくった意味は何か。たどり着いたのが、地産地消ならぬ「地産“他”消」だった。実力も経験もある料理人が、お店を持たず自由に現地の生産者と関わり、本当によい食材を見つけ、生産者の想いを紡ぐ調味料を作る。世界でも圧倒的に評価の高い日本の食材を世界に向けて発信することは、今、大変なことになっている日本の農業に対して一石を投じられるのではないか。食材を大切にする一流料理人だからこそ、農業に対しての思い入れも人一倍あるのだ。フランスでの経験から「日本の農業や農家の地位向上に役立ちたい」そんな想いもあった。こうして一流料理人の本気の調味料開発がスタートしたのだ。

小野田の熱い熱意と玉ねぎの味へのこだわりに共感し、竹原物産の社長は親身に相談にのってくれた。ビジネスについても教えてくれ、最高の味が出る『淡路島の極味玉ねぎ®』を都合してもらえることにもなった。もちろん、指定通りのカットもだ。何より助けになったのは破格な試作費用。並々ならぬ想いが空回りしそうな時、しっかりと地に足をつけて支えてもらえた。また、最後の最後に足りない何かを足すため、よい味噌を探しているときに出会った老舗八丁味噌カクキューの関西営業所長は関西の味噌蔵20社を紹介してくれた。そして、旨味の結晶（天然のアミノ酸旨味調味料）がついている珍しい赤味噌を使うことができたのも彼が愛知の自社工場に連れて行ってくれたおかげだった。 そして、初期から開発を共に進めてくれた川京フーズ。試作費用の負担をさせなかっただけでなく、最後の最後に「投げやりになってはいけない、諦めてはいけない、やり切りましょう」と、こだわりにこだわる小野田の背中を強く押してくれたことも忘れられない。出逢いと、多くの人たちの協力がなければ小野田の究極の味をつくることはできなかった。